1.あるべき姿

岩崎和隆です。

 「これでできるのか?」話について、状況を教えてくださりありがとうございます。このことについて、私からも話題を提供します。

 情報政策の学術研究の成果なので、公開情報です。

 武庫川女子大学の金﨑健太郎教授は、情報政策研究において、私と同様、官公庁DXや官公庁情報システムがなぜうまく行かないのか、どのよう

にしたら改善できるかを研究されている方です。プロジェクトマネジメントの経験があり、また、官公庁調達制度は私よりも詳しい方なので、研究

の参照分野が類似しています。元総務省キャリアです。この方の提言を紹介します。

 https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/50890/files/DA08989.pdf

  法案に対する事前システム審査の実施

  マイナンバー制度のように大規模なシステム整備を伴う法制度の制定や改正は今後も増えることが予想される。一方で現状においては、法案立案

の段階でシステム面までの十分な検討がなされることは少なく、法案成立後に既に決められたスケジュールに合わせるように調達と開発を行うこと

がほとんどである。行政サービスの主要手段として情報システムが活用される今後においては、法案策定の段階からシステム面での検討が十分にな

されることが必要であり、それが戦略的なプロジェクトマネジメントによる低コストでの情報システム調達と、質の高い行政サービスの提供につな

がるものと考えられる。情報システムの整備を必要とする法制度の制定や改正にあたっては、法案の立案段階において、システム面での実現の可

否、対応しうる事業者の存否、調達・開発に必要な期間、コストなどを精査し法案に反映させる手続が必要であろう。専門的知見を集めた IT 調達庁

による法案の事前システム審査を各省庁に義務付けることによって実現できると考えられる。


 これを拝読したとき、私は目からうろこでした。 


 上の提言は、典型的な公務員とは、真逆な考えです。しかし、法令で期限を切られたITプロジェクトをマネジメントしてひどい目に遭うと、このような考えに至るのが自然です。

 以上、参考になれば幸いです。

岩崎和隆です。


 こちらこそ、詳細なご意見をくださり、ありがとうございます。また、参考となる文献を紹介してくださり、ありがとうございます。

 参考文献中、「 (制度に基づく手続き情報の標準モデル化と検証) 調査報告書業務最適化のための業務モデリングに関する調査研究 平成23年度」は、次のURLで参照可能なようです。

https://warp.da.ndl.go.jp/collections/info:ndljp/pid/8231957/www.meti.go.jp/meti_lib/report/2012fy/E002593.pdf


 昔の話かもしれませんが、ある大手企業の出身の方から、民間では、発注仕様書はA41枚と伺ったことがあります。官公庁ではが必要とのご意見、ごもっともです。そして、その前提には、多段階契約が官公庁では採用できないことがあると考えます。

 官公庁IT調達の1円入札との関係で、官公庁で昔採用されていて、今は解消した単年度契約について、今では航空行政の研究で有名な福井秀樹教授の、次の論文があります。

https://www.jbaudit.go.jp/koryu/study/mag/pdf/j29d02.pdf

 この論文の射程が、執筆者の意図したところでないと考えられるのですが、多段階契約に及んでいるでの、私は頻繁に引用しております。

 も、ごもっともです。特に、官公庁のコスト削減に関心はあっても、国民の利便性には無関心ということについては、事務

職の採用採用試験では試験科目のひとつに経済学があり、そこで外部経済、外部非経済を学んでいるはずなのに、という憤り、もとい感想があります。

 も、ごもっともです。②をもとに、我が国全体の効率化という視点で国民を含めた形で業務の全体像を描くことから始めた方がよいと考えます。


 は、いままでは、バラバラでよかったのかもしれません。コンピュータ・システムを用いて我が国全体を効率化するなら、制度や手作業の統一が必要です。コンピュータ以前のことで例えると、我が国では道路は左側通行ですが、海外では右側通行の国もあります。右側と左側の優劣はないと考えられるところ、不統一は不便です。

 では、現実を無視した法令は、いくらでも作れてしまうという課題があります。たとえば、制度の詳細を決めずに制度施行日を決められてしまうと、IT担当としては、最後に、制度、業務担当に、「いついつまでに要件提示がないと、次の要件で業務システムを作ります」と通告することになります。


 解釈のブレは、官庁会計システムで標準化されたとのことですが、確かに、業務システムを統一すれば、ブレを解消できそうですね。ルールAとB、業務手順CとDの優劣を議論するより、ルールや業務手順をそろえる方がもっと有益、ということは、ありがちです。


 今後とも、よろしくお願い申し上げます。

岩崎和隆です。

業務モデリングの調査研究、2つあったのですね。資料を教えてくださり、ありがとうございます。

資料から離れてしまいますが、行政手続法の常識のない法律があって、驚いたことがあります。それから、今は、制度担当と話す機会が多いのですが、プログラミング経験がないためか、制度においてIF分岐で考慮漏れが多くて困ります。そのため、コンピュータなしの手作業であっても制度運営に支障を来します。

私の経験ですが、ある条件のときにゼロ除算が発生する制度がありました。制度開始後の初回の計算前に見つけて、制度を修正してもらいました。全体の0.5%程度発生するケースなので、そんなに少なくないのですが。難しい制度を考えようとして、担当者の能力を超えてしまい、自ら躓いている印象があります。難しい制度を作ると制度の細部まで整合性を保って設計するのが難しく、仮にその時の担当者ができても、後任が制度を維持管理できなくなります。保守しづらいプログラムと同じです。

制度と業務システムの関係では、今までは、制度ありきでしたが、業務コストを考慮すると、今後は、業務システムありきという発想に変える必要があると考えます。官公庁では、制度が法律、政令、省令、条例、規則などという形で制定されているため、業務システムを検討していて、法律どおりでは業務システムの設計に支障を来すことが判明しても、制度を見直すことが、ほぼ無理です。そのため、制度を先に決めるとうまくいきません。制度設計において業務コストを考慮するということは、目新しいことではなく、数十年前から行政学では言われていることです。

画面のバリデーションまで仕様書で指定してくれないという話は、メインフレームの一者随意契約からクライアント・サーバ・システムの競争的調達への移行で起こったことではなく、それとは別に、そういうことになったのでしょうか。

難易度と規模感がないと見積もりは難しいので、データモデリングとプロトタイプのコンペでは、応札時に価格の提案が必要な総合評価落札方式一般競争入札は、難しいかもしれません。企画提案方式随意契約で、優先交渉権者を選定して、開発内容と価格の交渉をした方がよいかもしれません。

ただし、都道府県及び政令市では、20万SDR以上では企画提案方式随意契約が使えません。【根拠】地方公共団体の物品等又は特定役務の調達手続の特例を定める政令(平成 7 年政令第 372 号)第 11 条第 1 項で「特定地方公共団体の締結する特定調達契約については、地方自治法施行令第百六十七条の二第一項(第五号、第八号及び第九号に係る部分に限る。)(略)によるほか、次に掲げる場合に該当するときに限り、地方自治法第二百三十四条第二項の規定により随意契約によることができる。(以下略)」と規定されているため。

なお、憲法と条約以外の法令は、国民、住民の理解が得られる内容であれば、いくらでも変更可能と私は考えております。

RPAは、OCRならまだしも、画面読み取りは、システム管理者が画面を変更したら、業務継続性を確保できません。システム管理者自身が使うなら、知らないうちに画面が変わることがないので、ぎりぎりOKかもしれません。

神奈川県でも、そういうことを知らない方が、画面読み取りのRPA活用の旗振りをしているので、危ないです。RPAについては、2019年なので古いですが、論文を執筆しています

https://www.jstage.jst.go.jp/article/proceedingsissj/15/0/15_S1-B3/_pdf/-char/ja

この内容を、情報システム学会で口頭発表しました。セッションには、研究者だけでなくIT企業の方も参加されていたところ、異論はありませんでしたし、あるIT企業のOBからは、強く賛成されたので、概ねあっていると考えております。

いろいろと記しておいて恐縮ですが、話が拡散してきたので、続きは、別の機会にしましょうか。

ただ、調達関係は、パネルディスカッションのこともあるので、よろしければ、このメールで引き続き意見交換を続けましょうか。このメールでのディスカッションを通して、私は、データモデリングとプロトタイプのコンペでは、企画提案方式随意契約が適するかもしれないと気付くことが出来ました。

有益なことをおしえてくださり、ありがとうございます。

今後とも、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

渡辺幸三

制度や法律先行ですか。民間でも同様です。最初に業務フロー(の改善版)とUI(の改善版)を手間暇かけてまとめて、それに見合うDBを設計するようなことをやって「DX」だと言っている。それでは「ピカピカの竪穴式住居」が出来上がるだけ。まずは、システムが扱う情報の論理的な形(データモデル)を明らかにする。そこからあるべき業務フローとUIを検討すべきです。

行政DXであれば、行政システムが扱う情報のデータモデルを抜本的に見直して、そこから制度や法律の調整を進める。現行の制度や法律を微調整するようなことから始めたら、やはりピカピカの竪穴式住居が出来上がります。住民にとっていいことはひとつもない。

ではデータモデリングできる業者を選べばいいのかといえば、そうではありません。この世には「構造計算したかのように見える建築図面」を納品するような業者がいるので、納品されたデータモデルがシステムを支えてくれるかどうかを検証する必要がある。そのためにモデルにもとづくプロトタイピングを業者に実施させる。手早くプロトタイピングできないとしたら、その業者は普段からプロトタイプによる検証をしていないことがわかるので、契約すべきではありません。

良好なスキルを持つ業者がいたら、データモデル、およびデータ移行済のデータベース上で動作するプロトタイプまでの開発までを準委任契約で進める。その後で、必要な制度や法律の見直しを実施する。その後ようやく、改めて業者を集めて合い見積もり可能な段階になる。そんな手順が合理的だと考えますがどうでしょう。

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実際のところ、例のER図も眺めてみたのですが現行制度の維持を前提としてまとめ直しただけのもので、新味がないだけでなく、ER図の出来としても最悪ですよね。多重度のレベルからおかしくて、プロトタイプなんて絶対に作れません。

渡辺幸三

> そのためにも佐野さんにご紹介いただいたような、自治体が独自で行政サービス
> を構築していく仕組みづくりを模索していけたらと思います。

それはつまり、「標準仕様書」に準拠しつつ各自治体が自分たちで「標準システム」を開発するという体制ですよね。それでは従来と本質的に変わりません。そうではなく、どの自治体も格安で店子になれるような「標準行政管理システム・プラットフォーム」の開発を25年までに終わらせるべきです。

そして、それを利用するかどうかは各自治体に決めてもらえばいい。税収の多いところや、札幌市のように業者と長期契約を結んでしまったところは独自システムで進めたらいい。税収の少ない自治体はプラットフォームに入居して、どうしても残るであろう独自部分についてはプラットフォームとAPI連係するように税収内で既存システムをカスタマイズすればいい。

そのうえで、各自治体のシステム運用コストを毎年シビアに比較する。独自システムにこだわる自治体の対税収コスト比は高くなるでしょうが、それを受け入れるかどうかは住民が決める。どんなにお金がかかろうが、どんなに不便であろうが、地元のシステム開発業者が潤うのであればそれでよし、と考える寛大な住民が多ければ堂々と独自システムでやればいい。「住民にコスパを示して選択肢を与える」ことが鍵です。

それにしても、「標準仕様書」をまとめて押し付けることだけが仕事と考えるのであれば、デジタル庁はデジタルなしろものを生み出さないという意味でデジタル庁ではなく「アナログ庁」か「ドキュメント庁」ですよね。適切に設計して適切に実装する――それがいちばん難しいのに、プロトタイプで検証されていない標準仕様書を押し付けるだけだなんて、自治体が気の毒でなりません。

岩崎和隆です。

 渡辺様のご提言である、「良好なスキルを持つ業者がいたら、データモデル、およびデータ移行済のデータベース上で動作するプロトタイプまでの開発までを準委任契約で進める。その後で、必要な制度や法律の見直しを実施する。その後ようやく、改めて業者を集めて合い見積もり可能な段階になる。そんな手順が合理的だと考えますがどうでしょう。」について、直感的には、いけそうと考えます。

 官公庁においてITを多段階で調達するときは、1円などの安値入札で後続の契約が高止まりすることに注意なのですが、渡辺様のご提言では、最初の準委任の契約でスキル重視の受注者選定をするので、ダンピングでスキルの低い方が受注するのが難しくなっています。その次のフェーズで、競争的調達により実際のコンピュータ・システムを開発するときに、競争性が実質的に確保できるか否か、最初の準委任契約を受注した方が圧倒的に有利になるかもしれないという懸念はありますが、費用が高止まりしても、制度、業務、コンピュータ・システムについて、良いものかつ動くものが出来上がるのであれば、今のように安いけど動かないもの、すなわち安物買いの銭失いになる可能性が高い状況よりも、国民、住民の利益になると考えます。

 すぐに競争性が働かなくても、将来的に競争性を高める可能性があればよい