2.データモデル
佐野です。
アンケート結果を事前に共有出来ないでしょうか?それさえ許されるならそれを事前に分析してIT勉強宴会主催でパネルディスカッションしませんか?
お二人のメールのやりとりも含めてIT勉強宴会のブログに残すためにやりとりされていた行政におけるシステム入札の課題や今後の方針を語ってもらえれば私がブログに整理します。集まるのはその後懇親会のような形で今後どう動けるかという論点ではいかがでしょうか?
私がモデレータする場合こんなことを考えていました。
■前提条件
地方自治の原則からみて共有システムの共同利用は非現実的です。それがあるためにITベンダーはパッケージを作成し各自治体独自のカスタマイズ
および法令対応という運用で儲けています。
国も地方公共団体も予算はありますが「予算を出来るだけ抑える」ことを良しとしません。地域業者にばらまく事で景気対策になるためです。
この辺りは大前提として考える必要があります。これらを批判するなら政治家に働きかけて憲法・法律改正するために何十万人も説得に成功する
必要があるためです。これで儲けているコンサル会社、ITベンダーは猛反対するでしょうからこの論点は避ける必要があります。
■議論の要点
1.対象とする業務によってツールの向き不向きがある
(データモデルを前提としないツールも使い方次第で有用)
2.住民記録を代表とする複雑な業務にツールを使う是非
3.使うとするとその選定はどうするか
■議論の結論
1.提案依頼書に何を書くべきか(案)
2.どういう業者評価コンペティションを行うのが良いか
3.どういう基準で評価するか
よろしくお願いします
渡辺幸三
先日もオフラインでおしゃべりしましたが、以下についてどうも私は賛成できないんですよね。
> 地方自治の原則からみて共有システムの共同利用は非現実的です。
> それがあるためにITベンダーはパッケージを作成し各自治体独自の カスタマイズおよび法令対応という運用で儲けています。
> 国も地方公共団体も予算はありますが「予算を出来るだけ抑える」 ことを良しとしません。地域業者にばらまく事で景気対策になるためです。
> この辺りは大前提として考える必要があります。これらを批判するなら政治家に働きかけて憲法・法律改正するために何十万人も説得に
> 成功する必要があるためです。これで儲けているコンサル会社、ITベンダーは猛反対するでしょうからこの論点は避ける必要があります。
「予算を出来るだけ抑えることを良しとしない」というのは行政の悪癖のひとつで、納税者にとってはふざけるなと言いたくなります。まあそれは受け入れたとして、私の主張は「より良いシステムを適正価格で手に入れられるようにすること」であって、安くすることを主眼にしていません。岩崎さんも指摘するように、残念ながら「ひどいシステムをひどい高額で調達している」のが現状です。地域業者に予算をばらまくことを重要視するにせよ、納品されるものがひどいシステムであれば発注側も住民も良しとしないのではないでしょうか(そんなシステムと交換して使うよりはヘリコプターマネーをやったほうがマシです)。百歩譲って「より良いシステムをより高額で調達できるようにする」を目指してもいい。それさえ出来そうにないから「調達における業者選定の問題」を我々は取り上げているわけですよね。
もうひとつ、佐野さんの「地方自治の原則からみて共有システムの共同利用は非現実的」の根拠となる法律や憲法はどういうものでしょうか。実際のところ小さな自治体は、業者が開発した共同利用システムを以前から活用しています。それは民間が作ったものだから合法で、総務省やナントカ庁が作って提供したら違法になるのでしょうか。仮にそういう法律や憲法があるとしても、同一のプラットフォームを利用してはいるが論理的に分離されているゆえに違法にならないと解釈する余地はあるような気がします。岩崎さん、そういう法律や憲法はあるのでしょうか。あるとしたら違法にならないための解釈上の工夫の余地はないものでしょうか。ちなみにこれは「調達における業者選定の問題」とは直接には関係のない、私が主張する「自治体システムのあるべき姿」に関する議論です。
岩崎和隆です。
皆様、渡辺様の「納税者にとってはふざけるな」のご意見ですが、私も全く同じ考えで、いつも、納税者としての私が、それをよいと考えるかをベースに考えています。次の経済同友会の提言では、個別調達によるお金と人材の無駄遣いを指摘しています。
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/201104a.pdf
P.5 「公共調達改革のモデルづくり 」
私は、官公庁情報システムの課題を考えるとき、法令との関係では、憲法改正と条約からの脱退は、現実的でないので、それらは与件として考えることとしています。民意が到底受け入れない法律や政令、条例なども、非現実的と考えます。
私は、今まで渡辺様が今回のメールのやり取りの中で表明したご意見について、以上の前提に抵触するものはないと考えております。
合憲、違憲という視点では、憲法第九十四条「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。」、地方自治法(昭和22年法律第67号)第十四条第一項「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。」と規定されているので、法律の範囲内かつ法令の範囲内で条例を制定できます。
「法令の範囲内」は「法律の範囲内」の部分集合なので、結局、法令の範囲内となります。そのため、統一情報システムは、違憲という判断にはなりづらいと考えます。
次に、地方自治の視点から、問題ないか、問題があると考えるか、ということがあります。私は、昨年度と今年度、日本行政学会でポスター発表と分科会報告をしており、そこで、共同化と地方自治(正確には、地方自治のうち団体自治)の関係について問題提起し、行政学者の意見を伺いました。
行政学者の意見では、従来から総務省が推進している自治体クラウドのような、その参加が各団体の意思によるものであり、参加を強制されていなければOKというところは、あまり異論がないようです。統一情報システムを作って参加を地方公共団体に強制することには、賛否両論です。私自身もですが、団体自治の視点で問題ないという意見もあります。
また、このような意見は聞かれなかったのですが、私の想定として、今後、「独自施策への制約の程度により、問題があるときとないときがある」という意見が出てくる可能性があります。
行政学者の意見などは以上のとおりですが、団体自治の視点と、共同化プロジェクトのプロジェクト・マネジメントの視点は違うので、政令市など大きな規模の団体は、共同化に難色を示すと考えられます。そのため、私は参加を強制しないで、中規模団体をターゲットにして共同化するのがよいと考えております。
詳細は、次の情報システム学会メールマガジン記事のとおりです。
https://www.issj.net/mm/mm17/04/mm1704-gk-gk.pdf
ちなみに、データモデリングのことにも言及しております。渡辺様のブログでご指摘のあった、本籍地のことにも言及しました。
最後に、手前みそになりますが、官公庁情報システムの課題解決には、ソフトウェアエンジニアリング、プロジェクトマネジメント、行政学、行政法学の知見が必要なところ、理系と文系の両方の学会で発表、報告している私から見て、理系と文系の方を同じ場に集めて議論しても、会話が成立する状況ではないと考えます。日本語と英語で議論するようなものです。IT技術者なら、プロトコルが違うから会話が成り立たないということです。
そのため、当面の現実的な対応として、理系と文系のそれぞれの専門家と、かろうじてお話することができるレベル?の私が、自らの経験と両方の専門家の知見を統合して、課題を考えようとしています。
技術者の方々は、私が一緒に議論に参加しているときは、法令を気にしないで考えてくだされば、というのが私の意見です。憲法又は条約に抵触しそうなことは、私が指摘いたします。
そして、我々の案がある程度まとまったら、私の見解だけで合憲性や団体自治などの判断をするのは危険なので、日本行政学会や日本公共政策学会の研究会の分科会などで私がその案を発表、報告します。研究会で行政学者など文系の研究者の意見を聞けば、OKかNGか分かります。
なお、日本行政学会の研究会は、非会員は参加できませんが、日本公共政策学会は参加できます。私が皆様に行政学者などのご意見をフィードバックしますが、日本公共政策学会については、私と他の研究者のディスカッションを聞くこともできます。
なお、我々の検討に、文系の学者を呼んで最終判断するのは、やめた方がよいです。文系の学会の研究会で広く数十人の研究者の意見を聞かないと、危険です。
学会ですと、年1回開催なので、それが待てないということでしたら、文系の視点では精査できていないけれど、技術者が考えてみましたという形で、どこかのメディアに発表してもよいかもしれません。ダメもとで、関係しそうな学会に検討への協力を依頼してみてもよいかもしれません。
私の知る限り、文系の研究者も官公庁情報システムへの関心は高いです。一部の研究者の関心は、極めて高いです。
たとえば、行政学とは、要するに、行政をよくするための研究です。そのため、行政学者は、ほぼ例外なく、行政をよくしたいと考えています。そして、官公庁情報システムへの関心も高いです。
文系の質のよい知見を得る方法は、私が試行錯誤してみます。
渡辺幸三
ゼロベースで考えた場合、ある程度の法改正は免れないと考えていましたが、それほど心配することもなさそうですね。非現実的な法改正が要るような提案に対しては適宜指摘してもらえるという保証があれば、システム設計の専門家として奔放に構想できます。ありがたいです。資料も読ませていただきました。まったく違和感はないのでぜひ協力させてください。
話は変わりますが、自治体や行政向けのデータモデルを確立する際に、カウンターになる考え方が「マイクロサービス・アーキテクチャ(MSA)」で、これには気をつける必要があります。MSAでは、小さなモジュール(サービス)をたくさん作ってそれらをAPIで連係させたらいいと考えます。それぞれのモジュールが扱うデータ構造は比較的単純といえるので、広域のデータ構造を明らかにするデータモデリングは事実上要りません。ところがMSAでシステムを作ると、そこらじゅうに似たようなデータが作られて相互に矛盾する状況に容易に陥ります。椿先生が嫌っていた「サイロ化」を公然と認めたような枠組みで、本来はWEBサービスの世界でのみ有効だったはずが業務システムの世界まで浸食しつつあります。小さく作ってAPIで連係させる際にはプログラミングスキルの効果が相対的に高まるので、MSAに魅惑される技術者は増えるいっぽうです。次のブログ記事で警鐘を鳴らしています。
アジャイルとマイクロサービスは最悪な組み合わせ
岩崎和隆です。
渡辺様、こちらこそ、ぜひ、一緒に考えたいです。本件における文系の論点はそんなに難しくないので、私のような、にわか行政学研究者でもなんとかなるのですが、技術の方は私では難しかったところ、今までやむを得ず一人でやっていたので、大変助かります。
技術者視点かつ納税者視点で国民、住民の利益になるものを構想してくださると、大変ありがたいです。
法改正のことで補足しますと、我々が案をつくっても、国、執行三団体のどちらかが賛成しなければ、法改正を抜きにしても、実現できません。そして、どちらかが賛成なら、法改正は難しくありません。
今回の国の取組みにあたり、デジタル改革関連法案を成立させています。
良くも悪くも、我が国でITは過去、選挙の争点になりませんでした。とんでもない法改正案でない限り、おそらく、これからも争点になりません。
マイクロサービスへの警鐘の記事を拝読しました。おっしゃるとおりです。マイクロサービスに限らず、成功事例が中小規模の情報システムだったり、性質が違うものであるときは、要注意ですね。官公庁情報システム関係でも、基幹情報システム以外の成功事例を持ち上げたものを見ると、基幹情報システムでも出来るのかと考えるのが習慣になっています。
団体自治について補足しますと、団体自治は、住民の利益実現の手段にすぎないので、それ自体が自己目的化することはあり得ません。ただ、統一情報システム参加強制を否定する行政学者は、独自施策への制約によるデメリットと統一情報システム参加によるメリットを比較して参加するか否かを決めるのは、国でなく各団体であるべき、という考えであると私は推測しています。強制参加を肯定する方は、そうはいっても、情報システムの性質上、強制してでも参加者を増やす方が住民の利益になるという考えと推測します。
岩崎和隆です。
話を拡散させてしまいますが、公正取引委員会の報告書は、API連携のことも問題ですが、そもそも論として、競争の番人が専門分野でない官
公庁情報システム調達を採り上げたのが間違いというのが私の考えです。(私の記事。情報システム学会メールマガジン)
https://www.issj.net/mm/mm16/12/mm1612-gk-gk.pdf
(日経BP 木村様の記事)
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00849/00072/
情報システムに限らず、官公庁調達(公共調達)では4大要請があります。履行の確実性、公正性、経済性、透明性です。
(財務省会計制度研究会報告書)
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/kaikeiseido/6-2rontennseiri.pdf
しかし、情報システム開発プロジェクトでは、主に民間を対象にした調査と考えられますが、次のとおり、成功率が50%です。
(日経BP 谷島様の記事)
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/100753/030700005/
競争政策では、履行の確実性の判断は発注者に委ねられています。そのため、公正取引委員会には、ノウハウがないと考えられます。
この報告書をまとめる前に実施した有識者の意見交換会の議事録は、次のとおりです。
(公正取引委員会情報システム調達に関する意見交換会 議事録掲載場所)
https://www.jftc.go.jp/soshiki/kyotsukoukai/kenkyukai/jouhousystem/ra.html
デジタル庁情報システム調達改革検討会は、第1回資料4 P.23の仮説を見ると、失注リスクなどいくつか的を射たものがあり、公正取
引委員会よりはよいと考えます。
(第1回資料4)
まだ、この検討会は途中なので、私自身の評価を確定させることはできませんが、官公庁情報システムで人材確保についてタラレバを書
いたら、どんな計画、どんな報告書でもアウトです。民間企業でも同様です。
文字通り、泥縄だからです。
以前、神奈川県情報システム再編整備事業全体計画の策定を主任として担当しました。この計画は、財政難で遅延し、また、部分的にし
か出来なかったでの成否の評価は難しいのですが、人材確保のタラレバはないので、それなりに現実的な計画であったと考えております。
人材面で考えていたのは、この計画の遂行を通した人材育成であり、計画遂行自体は現有の人材の現有のスキルを前提にしていました。
この計画は、意外な人事異動で計画策定者の私が実行時に不在となったのですが、元々、「計画策定者=計画実施者=私」というつもりで執筆しました。私にとってかなりきつい計画ですが、明らかに自爆という計画にはしなかったからです。社会人として自明のことですが、安請け合いをすると他の方に迷惑を掛けてしまうからです。
失敗する計画は、この視点が足りないと考えます。「計画策定者=私」「計画実施者=他人」であれば、故意、過失のいずれかで他人を
苦しめる計画を策定しがちです。
その計画を遂行すると想定される方の平均的なスキルで出来る難易度の計画にしないと、高確率で失敗します。
デジタル庁の報告書をまとめたら、まず、自分でやってみて、必要に応じて見直し、うまく行ったら、縦横に展開すればよいと考えます。
私は、デジタル庁の報告書がまとまったら、情報システム学会メールマガジン記事なとで取り上げます。
岩崎和隆です。
自分でやったことないのに、安易に出来ると考える人の声が大きいうのは、やはり、官公庁のつぶれない神話が大きいと考えます。民間なら、そんないい加減なことをしたら、多分つぶれてしまいます。
後輩が困らないよう、官公庁の失敗プロジェクトが減るように、無理ない範囲で自分の出来ることをしたいと考えております。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。